長い夜には手をとって


「100万も。・・・すみません」

「あなたが悪いわけじゃないですから」

 仕方なく私は苦笑する。だって存在を聞いたことはあったけれど、一度も会ったこともない人なのだ。綾のことなら弟である彼より私の方が詳しいのではないか、と思うほどだ。

「そうだけど、うちは両親ももういなくて、姉は唯一の家族だから。やっぱりこれは謝らないとと思って。だけどそのー、申し訳ないんですが僕にも現金はないんで、姉の代わりに返すってことは出来ないんですが」

 ・・・何だ、君が返してくれるんじゃないのか。実際ちょっとだけ期待してもいたのだ。綾が彼に電話したってことは、あんた悪いけど建て替えて、とかの話だったのかなー、なんて。でも違ったらしい。

 ああ、疲れた。私はぐったりと椅子に身を沈めながら言った。

「あのね、勿論私のお金は返して欲しいけど、それよりもとにかく綾に会って話を聞きたいんです。いなくなっちゃう前日まで普通だったし、蒸発するなんて思ってもなかった。何が起きたのかも判らないし。話してくれたら私だって何とかしようとしたはずだし、絶対、他のやりかただってあったと思うし・・・。相談もされなかったってことに私は傷付いてるんです。ってか、とにかく帰ってきて欲しい。今、綾が無事かどうかも判らないからめちゃくちゃ心配だし、このままだと本当にどうしようもなくて―――――――」

 話し出したら止まらなくて、私は一生懸命口を動かしていた。そうだ、多分私は、こんな風に誰かに話を聞いて欲しかったのだ。急激なショックで停止していた頭や心がまた動き出したようだった。


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