長い夜には手をとって
冷たい水が体を通る。それは美味しかったのだろうけれど、今はそのせいで余計に寒さを感じてしまった。
私をじっと見ていた伊織君が言った。
「凪子さん震えてるじゃん。ちょっとそこ座って熱測ってて。俺毛布もってくるから」
「・・・はい」
もういいよと言う気力もなく、とにかく私は従うことにする。二人用ソファーに何とか歩いていって、テレビ台の下から体温計を取り出して脇に挟んだ。
・・・寒っ・・・。ほんと、熱上がってるって感じ~・・・。
伊織君が上から毛布を持って降りてくる。それで私をくるくると巻いて、丁度鳴った体温計をパッと取った。
「――――――39度2分」
伊織君が眉間を寄せる。
「立派な高熱だね」
私はもう頷くだけにして、ソファーに頭を預ける。高熱だわ。ほんと、立派な。
伊織君は体温計を直しながらうーんと呟く。
「インフルエンザかな?大人でここまでの高熱って滅多にないよね」
「・・・あ、多分、違う・・・」
ん?と彼が振り向いたので、私は仕方なしににへら~と笑った。
「知恵熱なの。よくあるから・・・」
ここまで熱が出ると、さすがに複雑なことは何も考えられなくなる。だからこれは自分で自分を守るための方法の一種なのだ、多分。
「知恵熱?どういうことが判らないけど・・・まあ、確かに咳も出てないし、鼻水も出てなさそう。薬はどうする?」
「大丈夫、多分ね。・・・明日になれば、治ってるから。水飲んで寝るよ。伊織君もどうぞ寝て下さい。明日は早いんでしょ?」