長い夜には手をとって


 私がそういうと、うーん、とまた唸りながら伊織君は私を見ていた。だけどその内頷いて、じゃあ、上まで付き添うよと言う。

「階段上がれないでしょ、凪子さん。ソファーとかじゃなく、やっぱりちゃんとベッドで寝た方がいいし」

 出来るだけ、伊織君には触れたくなかった。だって熱が出ている今、私の理性はさほどないはずだ。現在勝手に混乱中だし、これ以上混乱するような要因は作るべきではない。それは判っていたけれど、体がどうにも動いてくれそうになかった。・・・あの階段を自力で・・・それは流石に無理か。

「・・・お願いします」

 しぶしぶ私はそう言って、彼の手を掴んで体を起こす。毛布を肩にかけたままでよろよろと階段に近づき、一段づつ上がることにした。伊織君が先に上がり、私を引き上げる。狭いので一緒に並べずそういう形で上まで行く事にしたのだ。

 急な階段は私の体力を更に奪っていく。途中で息切れがして、私はちょっとストップ、と呟いた。

「ああ、しんどい・・・」

「もうちょっとなんだけどな~。一回休憩だ」

 狭い階段に、壁に背をつけて座り込む。荒くなった息をそうして落ち着かせていたら、丁度目の前にある壁の板が目に入った。

 ・・・あ、ここか。私はちょっと笑ってしまう。

 同じようにして2段上で座っていた伊織君が、ん?と首を捻った。

「何見て笑ってんの?」

 心配している声だ。熱が上がっておかしくなったと思ったのかも。

 私は指を伸ばして目の前の壁を触る。そこは壁板が傷んでいて、途中で割れている箇所だった。軽く押すと、割れた所が外せて中の空洞が現れるのだ。


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