長い夜には手をとって
「あ、そこ外れるんだ?」
伊織君が上から覗き込む。携帯をポケットから取り出してライトを当てた。私はまたふふ、と笑いながら言う。
「・・・ここね、ちょっとした話があるの。年末か何かの大掃除の時に作っちゃった穴でね、東さんに言って怒られたら嫌だからって、綾と二人で内緒にすることにしたの」
あれは多分2年前だった。
2階から古い箪笥を下ろして捨てようって話になって、二人で下ろしていた時に角をあてて割ってしまったのだ。そして二人はオーナーには内緒にすることに決めて、板を判らないように嵌めなおした。
「その時に綾が言ったのよ。ここだったら何か隠せるねって。小さいものなら大丈夫だよねって。判子とか、大事なものでも隠しとく?って。私は笑ってそんなことしてどうするのって言ったけど、綾は真剣に考えてるようだった」
伊織君が穴を覗き込む。
「うん、丁度木枠があってここに物が置けるのか」
「そうそう。それでね、その後のバレンタインで、綾が言ったのよ。家の中に凪のためのチョコを隠したよーって。さあ、探すのだ!って。その頃何か宝探しみたいなものに二人で嵌ってたのよ。家の中で遊んでたの」
伊織君に話しながら、あ、そうか、と私は今更ながらに思った。
あの宝探しの時期に、綾は私の貯金を見つけていたのかもしれない。もしかしたら、そうかも。
「でもね、綾がそう言う前に、実は私見つけちゃってたんだよね、チョコを、ここで」
伊織君が笑った気配がした。