長い夜には手をとって
ちゃんと話したって納得出来ません~っ!!私は心の中でそう思ったけれど、一人でぎゃあぎゃあ喚いているのは確かにみっともない。大体一つだけとはいえ、私は彼より年上なのだ。無意識に彼から距離を置こうとシンクにひっついていた体を、何とか元通りに椅子に押し込んだ。
かなり緊張状態の私を見て彼はふ、と笑みを浮かべる。
「姉が迷惑をかけたのを、出来るだけ挽回したいんです。姉が持ち逃げしたお金を一括であなたに支払えればいいんですが、情けないけど俺もそんな現金はないのでそれは出来ない。だけど、収入はあるから出来る形であなたに返していきたいんです。家賃と光熱費を俺が払う、とかで」
・・・えーっと・・・。私は眉間に皺を寄せながら考えた。
「・・・一緒に住む、んですよね?ここで?」
「はい。だけど俺はカメラマンでほとんど家にはいませんよ。一人暮らしで借りてる部屋もたまに寝に帰るだけで、ほとんど使ってないのに家賃を払うのが勿体無いなーといつも思ってたんですよね。狭いのに立地のせいで高いし。スタジオで寝ることもよくあるので、月に2,3度自分の部屋で寝るかなーって状態の時もある」
そういえばさっき、外国から戻ったばかりで時差が云々って言ってたな。それに彼が持つこの自由な雰囲気は職業からきていたのか。私は彼の言葉を頭の中で反芻しながら、更に眉間に力を入れる。
「あまり帰ってこないんですか?」
「そう。というか、旅行が多いんです、仕事柄。だから、どうせ家賃を払うなら、誰かが住んでる家がいい」
「・・・綾の分を支払うってこと?」