長い夜には手をとって
「そうそう。それで大丈夫?って聞いたら、寝言みたいな感じで手を、って言うから、とりあえず握ってみたら収まったんだ。安心した顔で寝てて」
「え」
・・・何ですと!?
彼はよいしょと立ち上がって、腕をまわして大きく伸びをする。自分の部屋の中に伊織君がいることが不思議だった。いつもの風景なのに、いつもと同じではないってことが。
「で、眠ったよなと思って手を離すと、また悲しそうな顔して唸るんだよ。どうしようかなーと思ったけど、病気の時ってえらく心細くなるでしょ。多分寂しいんだろうなと思って。だから毛布運んできて、手を繋いだままで俺も寝て」
ひょええええええ~っ!!!
思わず布団の上で正座をして、土下座をしたくなった。
「ほ、本当っ!?うわ、あの・・・ごめんね伊織君~!!眠れてないよね!?そんな格好で~!」
わたわたとそういうと、まだストレッチをして体を伸ばしながら、伊織君は首を振る。
「大丈夫。座って寝ること、撮影では結構多いから。――――――それより凪子さん、熱は?」
「え?あ、うん・・・多分、まだある」
深夜ほどの高熱ではないだろうけれど、このダルさと額の熱さは熱があると思っていいだろう。
伊織君は掛け布団と毛布を自室へと戻してくると、ベッドに座る私を見下ろして首を傾げた。
「病院行く?会社は休めるの?」
あ、そうだ!会社だ!私はその言葉にはっとして時計を見る。7時半。いつもなら、電車に向かって自転車をこいでるころだった。