長い夜には手をとって
「あ、電話しなきゃ。私は休めるから、今日は病院行くね。伊織君は出勤時間大丈夫なの?」
携帯を取りながらそう聞くと、彼はまた欠伸をしながら頷いた。
「今日はスタジオで撮影だけだからまだ大丈夫。病院は一人で行けそう?」
「はいはい、行けます行けます!」
これ以上迷惑をかけたくなくて、私は必死で頷く。伊織君はじっと私を見たけれど、ふむ、と頷くと部屋を出て行った。
とりあえず、電話をしなきゃ。私は急いで会社と派遣会社に電話を入れる。時給の身分ではこれは痛いが、熱が下がっていないのだから仕方がない。もしかしたら本当にインフルエンザに罹患しているかもしれないのだ。発熱時は病院に行って領収書を出すことは会社の規定でも決まっている。
無事にどちらにも電話を済ませ、今度は落ちないように慎重に階段を降りると、洗面を終えて支度をしたらしい伊織君が、台所に立っていた。
「おかゆ作るから、食べて」
「・・・何から何まで、すみません」
私がそう謝ると、伊織君が振り向いた。
「俺だって看護してもらったんだから。お返し」
にっこりと笑っている。私はそれをぼーっとしたままで見詰めてしまった。私が切って短くなった彼の黒髪が朝日に光っている。あ・・・何か、素敵な光景・・・。
夢だと思っていたけれど、実は夢じゃなかったらしい。現実の狭間で揺れていて、私は伊織君に手を繋ぐことをほぼ強制したわけで。
・・・昨日の夜、ずっと手を繋いだまま・・・。
うわあ~・・・。