長い夜には手をとって
改めて恥かしくなってきた。顔を両手で叩きたいのを我慢して、私は急いで体温計を取り出すと、伊織君を見ないようにしてソファーに座って熱を測る。深夜にあったことを意識したせいで、熱が上がったかもと思った。
じゃあ病院行ったらちゃんと連絡してね、と伊織君に何度も言われ、彼は出勤していった。
熱は38度丁度だった。下がってはいるけれど、まだ高熱といえるレベル。私は作ってくれたおかゆを食べながら、テーブルの上のシミを凝視していた。
味がちゃんと調えられたおかゆは温かくて、一口食べることに、元気をくれるみたいだった。
くっと急に、涙が出てくる。
ああ~・・・私ったら、やっぱり落ちちゃったよね。ダメだダメだと思っても、やっぱり。これはきっと、避けてきたあの感情だ。どうせ誰もいないからと落ちる涙はそのままにする。
この寂しさは熱のせいだけではない。
それがしっかり判ってしまった。
私はやっぱり、伊織君が好きみたいだ・・・。
おかゆは全部食べたけれど、熱が高くて体力がないままな上に、弘平に送ってもらった時に駅に停めたままの自転車がないので、病院へはタクシーで行く事にした。
服はもう適当に着こんで、ゆっくりゆっくりと大きな通りまでを歩いていく。
化粧もしてないけれどマスクとマフラーで顔はぐるぐる巻きでほぼ見えないから問題ない。熱が高いときは、他の全てのものに構っていられなくなるものだ。その外見ですぐに病人だと判ったらしく、タクシーの運ちゃんはわざわざ降りてきてドアをあけ、乗せてくれた。