長い夜には手をとって


 私は思わず叫んでしまって、ハッとして口をつぐむ。前に座っていたおばあさんがちょっと振り返ってみたけれど、あとの人は聞こえていないようだった。

 え、え!?伊織君、ここまで迎えにくるって・・・別にいいのに!

 一瞬で血圧が上がったようだ。心臓がドキドキいうのを、私はじっと座ったままで聞いていた。

 そのまま会計を待って、その後薬局にて薬を貰っていると、伊織君から路駐してますよ、とメールが来た。私は急いで病院を出る。路駐!?ってことは、え、車なの?

 体温が高くてもさほどしんどくなく、今は違ったドキドキが全身を支配していた。

 顔に出てなければいいんだけど。喜びとか、興奮とかが。ドアを出て周囲を見回す。すると、窓から長い腕が出ておーいと呼んでいる伊織君を発見した。

 私は出来るだけ急いで、その白い車に近寄る。

 車の中からにっこりと笑顔の伊織君。・・・そして、助手席にはいつかの学生アシスタントさんの姿。

 あ。私は驚いて立ち止まった。相手は窓ガラス越しに私を見ている。その眼差しはあまり友好的なものではなさそうだったのだ。

 乗るべきかやめるべきか、と咄嗟に考えていると、伊織君が急かした。

「ほらほら、凪子さん早く乗ってー。ここ、すぐ動かないといけないからさ」

「・・・あ、はい」

 私は後部座席に入りこむ。それから前に座る、どちらともになく頭を下げる。

「あの・・・ありがとう。わざわざここまですみません」


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