長い夜には手をとって


「いやいやー、先生が車出していいって言ってくれたんだよ。それで外に出てたついでに丁度いいから迎えに来たんだ」

 伊織君が明るい声でそういう。昨日はきっと寝不足だっただろうに、元気そうで安心した。

「ってことは、この車は・・・」

「スタジオのだよ。午前中、営業にまわってたから」

 はあはあ、それで学生アシスタントさんを連れているのですね!私は納得して、ちらりとミラー越しに助手席の彼女を見る。あの茶髪ポニーテールの美人さん、確か、三上さん、だ。彼女は無表情で外を見ていた。

「凪子さん熱は?」

「まだあるー・・・。でも大丈夫だよ。本当にいいの?あの、タクシーで帰るつもりだったんだけど」

「もう乗ってるんだから気にしない。一回スタジオに荷物おろしに寄るけど、その後俺が家まで送るからねー」

「・・・ありがとう」

 私はお礼を言うと、座席に小さく縮まっておくことにした。だって学生アシスタントさんは黙っているのだ。なんというか、申し訳ない気分になったのだった。私は仕事中に邪魔する女・・・。

 やっぱり熱があるので、揺られているとトロトロと眠くなってくる。私がうつらうつらしている内にスタジオ阿相に着いたらしい。以前来たときと同じ、立派で洒落たモダンな倉庫のようだ、と同じ感想を持ちながら建物を見上げていると、伊織君がドアを開けて降りながら言った。

「ちょっと待っててね、凪子さん。荷物置いてくるから。―――――三上、あとそれも頼むね」

「はい」


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