長い夜には手をとって


「・・・え?」

 くらりとした。寒気も背中を駆け上がる。

 私が、伊織君にハウスシェアを強制――――――――・・・・・

「ごめんね、凪子さん。お待たせ」

 ドアが開いて、伊織君が冷たい外の風を連れて乗ってきた。

 私は咄嗟にシートにもたれかかって目を閉じ、眠っているふりをする。

 ドキドキしていた。そして、指先がすうっと冷たくなったのが判った。

 伊織君は私の様子を覗いたらしい。そして眠っていると思ったようで、静かに車を発進させる。目を瞑ったままで、私はコートの中で震える手をぎゅっと握り締めていた。

 頭の中で、三上さんと弘平の言葉が代わる代わる浮かんでは消えていく。『あなたがハウスシェアを強制』『綾さんの弟さんも望まない同居から解放される』『いいように使うのはやめて』『弱みがあるわけで』『俺だったら嫌だな』。

 伊織君はやっぱり、仕方なく、あそこに住んでいる?綾の後始末の為に、嫌々あの家に・・・。

 ダメだ、今は考えちゃ。そう思って、必死で違うことを探した。何か何か、何か別のことを考えないと。でないと、泣いてしまう。ここで泣くわけにはいかない。きっと心配させてしまう。だから――――――――――

 道は空いていたらしい。

 すぐに家の近くに着いたようで、伊織君が、よし、と前で声を出して車を停めた。

 私はその声で起きたかのように振舞う。目をしばたかせて、小さな声で彼にお礼を言う。

 そこは国道沿いのパーキングだった。


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