長い夜には手をとって


「そんなことないよ。大体ここに住むって言い出したのは俺なんだけど。覚えてる?俺が提案したら凪子さんは拒否したよね、最初?」

 はいはい、それはバッチリ覚えてますよ。私はお茶をすすって喉を湿らせる。

「うん。だけど、人から見たら綾の借金という弱みがある君に、私が意識なく強制しているように思えるそうで・・・」

 伊織君は呆れた顔をして、パッと片手を振った。

「意識なく強制?それって言葉がおかしくない?それにさ、他人にどう思われようと関係ないでしょ。放っておけばいいんだよ、そんなの」

 ・・・まあ、そりゃそうなんですが・・・。私が俯いて黙ってしまうと、前で寛いだ格好をして、伊織君がため息をついた。

「想像ついた。それ言ったの、凪子さんの元カレだろ。この前の。復縁を迫られたって言ってたよね?また現れたとか?」

 おお、何故わかるのだ!?驚いて顔を上げると、彼は珍しく眉間に皺を寄せている。機嫌を損ねたようだ。

「それで余計なお世話なことを言われたってわけ?住む前にも説明したけど、俺は誰も住んでない部屋の家賃を払うのが嫌だったんだよ。今は凪子さんが住んでいる部屋に払ってる。その方がお金も生きてると思うよ。捻挫の時だって助かったし、今だって――――――――」

「だって、じゃあどうして・・・」

 思わず声を出してしまった。ハッとして口を閉じたけれど、伊織君は首をかしげて先を促している。私は小声で言った。


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