長い夜には手をとって

 実は、お互いに惹かれていた。というか、がっつり両思いだった。

 ということが判ってしまってから、伊織君はますます帰ってこなくなったようだった。

 お金のことを一番気にしているのは、多分、彼なのだろう。君とは対等じゃないと言った言葉が忘れられない。

 私は体調もようやく戻り、あの夜のことを思いだしては一人で照れて過ごしていた。カーッと熱くなってその場でじたばたしたくなる。

 気分がやたらと良くなったり、その次はこのままもう伊織君には会えないのかもとか考えて暗くなったりで、忙しかった。

 テンションの違いから、菊池さんには見抜かれてしまった。

 一度結婚式の話をちゃんと聞くよって夜に飲みに行ったのだ。その時、私はしっかり聞いているつもりだったのだけれど、彼女は上の空だと思ったらしい。

 どうしたのと問い詰められたのだった。

 で、とりあえず、同居人に対して抱いている自分の気持ちだけは話す羽目になった。

 どうやら一緒に暮らす彼を、好きになってしまったらしい、と。

 キスやその他の出来事は全部省いて、自分の気持ちだけを話した。

「え~っ!!!やったあ~っ!!」

 菊池さんはそう言って店の中で万歳と叫ぶ。もうビールも3杯目だったから仕方がないか、と思えたけれど、万歳は流石に恥かしい。私は慌てて彼女を押さえつける。

「静かにして~!」

「だって塚村さんが久しぶりの恋を~っ!これで恋バナが楽しく出来るってものじゃない!やったー!ついに加納さんを本気で消し去って、新しい世界を開けたのね~!」


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