長い夜には手をとって


 ・・・あ。私は目を見開いた。弘平のこと、すっかり忘れていた。何てことだ、私ったら!

 菊池さんはそんな私には気づかず、はしゃぎまくっている。

「で、で?いつ告白するの?だって一緒に住んでるんだからそんなの余裕よね!?あっちだって彼女いないんだったら絶対嫌じゃないよ~。最近塚村さん、色気があるって思ってたのは間違いなかったのね~!」

「・・・色気、出てますか」

「うんうん!触れなば落ちんって感じ~!」

 ・・・それはヤバイのでは?違う意味で。私はそう思ったけれど、とにかくニコニコしておいた。そして、実はもう同居人の気持ちは知っているんです、とも言わなかった。そんなこと話したら、菊池さんはここで踊りだすかもしれない。

「うわ~、嬉しいな~!なかなかイケメンなんだったよね?それでカメラマンだっけ?新鮮だわ~」

「まあ、菊池さん、落ち着いて。とにかく久しぶりに恋をしてしまったので、上の空に見えたらごめんね。ええと・・・結婚式の話をしようよ。花とか、どの種類にするか決めたの?」

 無理やり話題を変えたけれど、もともとその話をしたくて飲みにきたのだ。菊池さんはあっさりと頭を切り替えて、マシンガンのように喋りだす。

 たくさんのパンフレットを見せながら、あーでもないこーでもないと好き勝手いいまくって、沢山お酒を飲み、散々笑って夜を過ごした。

 帰っても、多分今日も伊織君はいない。

 スタジオにこもってるのか、もしかしたらまた出張で違う土地を旅しているのかも。


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