長い夜には手をとって
彼はすぐに気がついた。口元にはうっすらと微笑。目を細めて私を見ている。近づくのを待ってから、笑顔を大きくして言った。
「お疲れさん」
愛想の良い笑顔とタイミングが完璧な言葉。好意を全面に押し出してくる態度。私は既に彼のペースにはまっている気がして、自分の手をぎゅうっと握る。そうすれば爪が手の平に食い込んで、現実を思い出せるかと思って。
「寒かったでしょう。どこかに入ってればいいのに」
私がそう言うと、弘平は首を振った。
「逃げられるかと思ってね。今日は予定ないのか?ご飯一緒出来る?」
「ううん。その必要ないの。すぐに終わるから。ねえ、私―――――――」
だけど話し出した私の前にパッと片手を出して、弘平はストップという。
「俺にとっては大事な話なんだよ、ナギ。そうじゃなくても路上でする話じゃない。ご飯がダメならせめてお茶でもいいから、移動しないか?」
私は口を開きかけたけど、後ろから出てくる銀行の関係者にじろじろと見られているのに気がついた。・・・まあ確かにここでは問題かも。こんな時に話す相手が美形だと無駄に目立ってしまうことになる。
そんなわけで一緒に歩き出す。どこか目立たなくて、静かに話が出来るところは・・・。私が考えていると、弘平がこっちだ、と腕を取って信号を渡りだす。
「クロージングに最適な場所はよく知ってる。任せろ」
「・・・」
まあそりゃああなたは営業マンでしたからねえ。私は心の中でそう呟いて、ついていく。