長い夜には手をとって
「二人になって、懐かしさもあるしふと手を出したくなって、あなたは復縁を口にした。でも私に拒否されて、しかも伊織君が出てきた。誤解したよね、弘平はすぐに。だから、余計に私を手に入れたくなったんじゃない?闘志を燃やして」
自分は誰とも付き合っていないのに、過去の女は別の男と同棲している、そう思って、悔しかったんじゃないだろうか。私にはそう思えるのだ。そして彼は、もう一度やり直さないかと言った時より激しく私が欲しくなった。
弘平はまだ黙っている。
私は一度話を止めて、コップの水を飲んだ。その冷たさを指に感じた時、過去の寂しかったときのことが蘇ってきた。
「・・・ねえ、弘平はさ、付き合っている時に私が風邪を引いてしまった時のこと、覚えてる?咳があったし微熱だったけれど、会いたくてデートの待ち合わせ場所にいったら、弘平が言ったよね?うつされたら都合悪いから、今日はやめとこうって」
弘平が顔を上げて暗い目で私を見た。そして呟くような声で言う。
「あれは・・・翌日大事なクロージングがあって・・・」
「うん、知ってたし、理解もした。だから私は大人しく帰ったでしょう。だけど寂しかった、あの時。営業成績でお給料も変わるし、それは仕方ないって思ったよ。でもあなたの部屋でご飯くらいは一緒に食べられると思ってた。大丈夫かって心配して言ってくれると思ってた」
それはなかった。彼は悪いと謝って、さっさと帰ってしまったのだ。