長い夜には手をとって
「お互いにいい話だと思ったんだけどなー。どうしたの?揺れていたはずなのに、急にえらくハッキリと」
私はイライラと手を顔の前で振る。
「私は結構流されやすい性格をしているの。だけど元カレが金持ちの俺様で、容姿と環境に裏打ちされた自信で満々な人だったのよ。で、でね、結局は百年の恋も冷めちゃったわけだけど、その時に相手の言うままに流されてたらえらく大変なことになるってよお~く判ったの。で、元カレと別れたあとは反省を踏まえて出来るだけハッキリ言うように努力してるー、っていやいやいや、そんなことは今はどうでも良くて!何言ってんのよ私!」
かなりどうでもいいことをベラベラ喋ってしまったのに気がついて、赤面しながら私はもう一度深呼吸をする。やり直しじゃないの、全く!
ちょっと面白そうな表情を浮かべて耳を傾けている綾の弟に、私は手の平をみせてハッキリと言った。
「とにかく、有難い申し出だけど、お断りします。お金は確かに大変だけど、どうにかしてみせる!」
「どうにかなるの?」
「するの!」
「だってあまり時間もないって、さっき」
「でも何とかするんです!その努力をするんです~!」
両手をバタバタと振り回しそうになった。ギリギリで耐えて、それはしなかったけれど。水谷弟はしばらく黙って私を見ていたけれど、やがて視線を外してコーヒーを飲み干す。
「・・・へえ?まあ、無理にとはいえませんし、勿論」