長い夜には手をとって
「覚えてる?東さんがこの家に突然来たとき、俺、飲みに連れて行かれたでしょう」
「ああ、はいはい」
急に現れた東さんは伊織君を私の彼氏だと勘違いして、そうでないとわかったあと、入居審査だとかいって彼を連れて行ってしまったのだった。そして、べろんべろんに酔わせて戻ってきた。
「実は、あの時、東さんにクギさされてたんだ」
「うん?」
伊織君はまた笑う。
「凪子さんに手を出すなよって、東さんに言われてた」
・・・ええ!?
私がびっくりした顔をするのは予想していただろう、伊織君はそれをじいっと見ていて、満足そうな顔をした。
「今までは行儀よくしてたようだけど、これから先、もし凪子ちゃんに手を出すようなら容赦しないって、東さんに言われてね。『兄ちゃん、わかってるやろなあ?』って凄むんだよ。俺は実際ぎくっとして、しどろもどろになってしまった。だって既に凪子さんに惹かれてたからね」
「えっ?そ、そうなの?・・・あのー、具体的にはいつから・・・?」
東さんのことは大いに気になったけれど、私はそれを聞かずにいられなかった。だって私が伊織君を気にしだしたのは、多分、寝顔を撮ろうと企んで失敗した時なのだ。君は一体いつからそういう対象として私を・・・。
伊織君は私の背中をゆっくりと撫でる。
「・・・んー?ああ、最初に会った時」
「ええっ?」
何だってー!?
私は彼に最初に会った時のことを思い出す。急に鳴ったチャイム。ドアを開けたら、暗い中に立ってにこにことこちらを見ていた背の高い男性。その笑顔が綾に重なって、私はどうぞと言ってしまったのだった。