長い夜には手をとって

③イオリの告白



 春が来ると、我が家の裏手にある家の前に咲く桜の花が満開になる。

 ヒラヒラと薄紅色の可憐な花びらは風にのって我が家の庭に入り込み、それを見るたびに季節を確認するのだ。

 ああ、春が来たんだなあ!って。

 伊織君と一緒に住み始めて、5ヶ月が経っていた。恋人同士になってからは、1ヶ月と少しが。そしてこの4月の最初に、伊織君は誕生日を迎えて私と同じ年になった。

「2ヶ月だけは、同じ年齢だね」

 私はそう言って彼のビールグラスに自分のを当てる。

「かんぱーい。誕生日おめでとう、伊織君」

 ありがとー、そう言いながら、彼はにこにこと笑っている。

 縁側にいた。

 春とはいえまだ少し風は冷たかったので、二人とも並んで座った膝の上には毛布をかけて。開けた掃き出し窓のところにさっき作ったばかりのお酒の肴を並べて、縁側で日向ぼっこをしているのだった。

 去年までは、ここで一緒にお酒を飲んでいたのは綾だった。小柄で髪が長い、明るくて優しいお姉さん。それが今では年下の男性に変わり、そして彼は私の恋人なのだった。もう・・・本当に人生って何が起こるか判らないわ!

 私と付き合いだしてから、伊織君は頻繁に家に帰ってくるようになった。旅行雑誌の依頼は相変わらず受けていたから出張はやっぱり多かったけれど、スタジオにいる時には、仕事が終われば速攻で帰ってきてくれる。

 阿相カメラマンに認められて、人物写真も撮りだすようになったらしい。





< 192 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop