長い夜には手をとって


 私は顔を離して彼を見る。・・・ちょっと、困るんですけど、この状態・・・。

「ええっと・・・」

「ねえ。先に進みたいんだよ。29歳になった俺の、目標。好きな人と結婚すること」

「・・・それ、今考えたでしょう」

 悪い?そう言って伊織君は体を起こし、私を引き寄せて抱きしめる。

「何が不安ではいって言ってくれないのか、教えて。解消につとめるから」

 私はぎゅうっと抱きしめられて息が苦しかった。どうしたのだいきなり、この溢れる求愛行動は!?彼は元々もつ末っ子の性質全開で、恋人になってからは甘えん坊が炸裂していたけれど、こんなことはしなかった。

 どちらかと言うと照れ屋だし、淡白な方だと思う。それに大人の男性であるということを意識して行動していた。

 だけど今は何としても自分の思い通りにすべく全力を出しているようだ。

「ちょーっと待って。・・・よいしょ」

 私は何とか彼の体を押しのける。そして、きっとめちゃくちゃ赤くなっているだろう顔を上げて、伊織君をしっかりと見た。

「ぷ、プロポーズ、は、嬉しいの。うん。君のことは・・・えと、好きだし、これからも一緒にいたいと思うから。まだ付き合って間もないから驚いただけ。だけどいきなりなのはどうして?さっき何を考えていて、私に急に迫りだしたの?」

 伊織君が真顔になった。それから私の体に巻きつけていた手を放し、後ろの壁にもたれてビールを飲む。


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