長い夜には手をとって


「好きで一緒に居たいからっていう以外に、理由がいる?」

「いるでしょ。だってあまりにも突然だったもの。あの、ちょっと前の熟考だってかなり怪しいし」

 私がそう即答すると、伊織君は指で頬をかりかりと掻いた。

「・・・うーんとね。これ聞いたら、凪子さんがどう反応するか判らなくて・・・」

「はい?」

「今の俺のままで、結婚を承諾して欲しいんだよね」

「はーい?」

 謎だらけだぞ、おいおい。私は怪訝な顔をしたままで首を捻る。

「君は君でしょ。それとも結婚したら、いきなり性格が変わったりするの?」

 DV男に変身するとか?それなら確かに考えなきゃだけど。私がそう言うと、そういう事じゃないと苦笑している。

 大事な話が実はあるらしい。だけど、それを話す前に私にうんと言って欲しいらしい。それってワガママじゃない?

 だけど、と、春先の風に吹かれて私は考えた。

 隣の桜の花びらがひらひらと舞っている。温かいお日様。まだちょっと冷たい風。私はこの人が好き。それに、一緒にいたいと思っている。心温かくなるこの関係を、出来ればずっと、永遠に――――――――――・・・・・

 空の青をバックに舞い踊る花びらを見ていたら、いつの間にか笑顔になっていた。

 そうだよね。物事は、突き詰めたらシンプルなはずだよね。相手のことを好きで大切に思い、尊敬出来るかどうか。そして最後は多分これ。――――――――タイミングに尽きる。

 私は伊織君の両手を取った。

「・・・うん、結婚しよう」


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