長い夜には手をとって


 体から力がぬけて、私はそのままで重ねた毛布や枕の上に落ちてしまう。

「・・・ちょっと・・・ちょっと待って待って・・・」

 ごめんって、ごめんってごめんって・・・やっぱりこのこと。強いショックでガンガンと頭が痛み出す。私は涙目を両手で覆って、布団の上に突っ伏した。

 同居人の綾は、私が貯めて来たお金を全部持って、出て行ってしまっていた。


 ただの家出なんかではなく、実際には、彼女は蒸発していたらしい。

 それがハッキリしたのは、彼女が勤めていたインド料理屋へ電話をかけた時。電話の向こうで日本に来て長いインド人の店長さんが、うんざりした、って感情がしみじみと出ている声で言ったのだ。コックも一人居なくなっているらしい。私はその居なくなったコックの名前も知っている。だって、綾の彼氏なのを知っているからだ。

 彼だって何度も家にきたことがある。いつもスパイスの香りを漂わせていて、浅黒い肌に白い歯をみせて笑い、美味しいご飯を作ってくれたりもしたのだ。片言の日本語でよくおどけていた、綾とお似合いの可愛い男の人。現在彼氏のいない私をいれて3人で、それぞれの誕生日をお祝いしたりもしたのに。

 二人は、駆け落ちしてしまったらしい。

 店は急にコックとウェイトレスが消えて困っているらしい。しかも彼らは店の昨日の売り上げ分も持ち逃げしたらしい。とりあえず警察には電話したけど、と店長が話すのを私は呆然として聞いていた。

 綾ったら・・・。一体何してんのよ。


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