長い夜には手をとって


「・・・そっか・・・。そっかあ・・・」

「そうそう。だからさ、凪子さん。もうすぐに結婚して、準備を整えよう。姉貴が戻ってきたら驚かせられるように」

 ふふふ、と笑い声が漏れる。

 想像した。綾がこの家に戻ってくる。ドアを開ける私達。彼女はきっと驚くだろう。そして多分、笑ってお祝いをしてくれる―――――――・・・


 伊織君はすっきりと晴れた春の青空を見上げて、一つ大きな深呼吸をする。

 私達はすっかり忘れてしまっていた料理を食べだして、もう一度、ビールで乾杯した。

「では、これからも宜しく」

「あの、えっと。・・・こちらこそ」

 婚約者になった今、これからの計画もどんどん立てられるね~、と私が嬉しく言ったら、伊織君は穏やかな笑顔で頷いた。

「・・・多分、姉貴も判ってて俺に電話したんだと思うんだよね。凪を宜しくって何回も言ってたもんなー・・・」

 ちょっとずつ、整えていこう。

 私は心の中でそう思う。

 これからだって生活は変わらない。私達は今まで通り、二人のペースでやっていくのだ。結婚の報告に母は喜ぶだろう。それに、菊池さんも。だけど派手なことはしないで、私たちらしく、毎日を生きていこう。

 興奮も手伝ってビールがまわり、私は酔っ払った頭で神様にむかってお祈りする。

 早く・・・早く、綾にあわせてください、って。

 あとは本当に、それだけだから―――――――――――



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