長い夜には手をとって
呆気にとられたままで視線を赤ん坊から後ろへとうつすと、抱え上げていた赤ちゃんをゆっくりと下ろしながら、笑顔で立つ女性がいた。
あ。
・・・ああっ~!
「・・・綾~っ!!!」
「うわっ、姉貴!」
二人が一斉に叫んだからだろう、赤ちゃんはびくっと体を震わせて、次の瞬間号泣を始める。私達はそれにもビックリして、慌てたせいで彼はたたきからずり落ちかけた。
「あぶっ・・・危ない!」
「ちょっと~!」
「うっぎゃああああああ~っん!!」
大混乱の玄関先。泣き叫ぶ赤ちゃん。落ちかけて柱を掴む伊織君。そして腰がぬけてへたりこむ私。それに――――――――――にこにこと笑顔の、綾が言った。
あの懐かしい声で。
「ただいま、凪。色々迷惑かけて本当にごめんね」
って。
「何で俺は無視なわけ?」
ようやくコートを脱いでどっかりとソファーに座りながら、伊織君が顔をしかめて綾に噛み付いた。
「姉貴の尻拭いでここにきて、もう1年住んでるんだけどね、俺。一応ここの主なんだけどね、俺。何で完全に無視なんだよ全く」
号泣した赤ちゃんを腕に抱いてあやしていた綾が、にやりと笑って座る弟を見下ろした。