長い夜には手をとって
「だってここは凪と私の家だったんだもの。いつの間にかあんたのものになってるなんて、そんなこと知るわけないでしょー?」
赤ん坊と綾の二人を家に上げたときに、綾がキョロキョロと見回しながら言ったのだ。あら、えらく綺麗になちゃったんだね~、って。それでまだ私がパニックを起こしている間に、突然の姉の出現に急激に機嫌を悪くした伊織君が色々話してしまった。
私達は結婚していて、もうここは伊織君が買取った家。正真正銘の水谷家になったんだ!って。
私には見せたことがない恐ろしく不機嫌な顔で、伊織君は綾を睨みつけている。
「そもそも姉貴が!」
「そうそう。だから戻ってきたんじゃない。凪に謝らなきゃだしさ」
「で、俺には!?」
「何であんたに謝る必要があるのよ。ちゃーっかり凪と結婚して、ラブラブ生活になってるんじゃないのー。それって私が仲人みたいなもんでしょ」
ぐっと詰まったけれど怒髪天きたらしい伊織君が反撃しようと立ち上がりかけたところで、私は大きな声でストーップ!と叫んだ。
ぴたっと水谷姉弟は止まる。
二人で一緒にこちらを向いた。
「あのさ、久しぶりの兄弟喧嘩もしたいだろうけれど、ここで一番話を聞きたいと思ってるのは、間違いなく私なのよ!最初の被害者は私です!やめてちょうだい。赤ちゃんもいるんだから、みっともない!」
二人は何となく静かになって、別々にはーいと返事をする。まだ不機嫌ではあったけれど、伊織君は口をつぐんでまたソファーにどっかりと座った。
私は腕を組んで立ったままで、赤ちゃんをあやす綾をじろりと見た。