長い夜には手をとって
「・・・おおー、凪のそのポーズ久しぶりだわ~」
「やめて、綾。あんたは私に殴られたって文句言えないことをしたんだからね」
「うん、判ってる。だから、殴られに戻ってきたの」
へ?と私が首を捻ると、彼女はすいーっと近づいてきて、顔を差し出した。
「さあ!思いっきり、バーンと殴ってくれていいわよ!ぐーでいいから!ぐーで!」
・・・・いや、あのね・・・。
私は急に疲れを感じて肩を落とす。出来ないでしょ、腕に赤ん坊を抱えた母親を殴るとか。もう眩暈がするわ。
「・・・殴るっていうのは言葉のあやよ!とにかくちゃんと説明してちょうだい。まずはこの―――――――」
私は彼女の腕の中で、今まさに眠りに入ろうとして瞼を重くしている赤ちゃんを手の平で示す。
「―――――赤ちゃんよ。一応聞くけど、綾の子供なの?」
「うん、今7ヶ月なの。女の子。香織って名前なんだよ~」
指差された赤ん坊を見て、綾はにへ~と目元を緩める。眠りかけている娘に、ほ~ら凪おばさんに挨拶しなきゃね~、などと言っている。
「・・・ええと、そう、判った。で、父親は」
「そりゃジャムルの子だよ!日本出てインドに行ってさ、出来たんだよねえ。香織・プーナム・ジャムル。凪にあわせたかったの、ようやく叶ったわ!宜しくね~」
・・・くらくらくら。私はしばし眩暈を覚えたけれど、何とかその場に立っていた。
元々明るい性格ではあったけれど、綾はインドにいってその陽の部分が強化されたようだ。何なの、この明るさ・・・。あんたは失踪してたんだよ!