長い夜には手をとって


 その一言で、ものを処分すると聞いてざわざわしていた心が落ち着いた。私は笑顔で頷く。

「そうだね、ちゃんと分けよう」

 その時、午前10時半。お昼ごはんまで頑張ることにして、家にあった段ボールや紙袋をかき集めて持ってあがり、私も部屋着の袖をまくって綾の部屋へと入る。そして黙々と作業をした。

 下着などは伊織君は触りにくいだろうと思って、私が箪笥を担当した。服は元々そんなに数がなかった。インド人の彼氏が出来てからの綾は服装の好みも変わり、民族衣装的なものや柔らかい素材のふんわりしたワンピースばかりになっていた。だからまとめて段ボールに入れてもさほど嵩張らない。

 本やCDは、伊織君が欲しいと言ったもの、私が読みたいと思ったもの以外は売ることにしてまとめて廊下に出す。小さなチェストの中に入っていた昔の手帳や雑貨類は残すことにして紙袋へ全部いれる。酷いことをされたけれど、綾はやっぱり私の友達なのだ。彼女との素敵で楽しい思い出はこの家の中に染み込んでいるし、物も少しは残しておきたい。

 弟君と違って綾は小柄だったけれど、寝る時には広いベッドがいいといって、かなり存在感がある大きめのベッドで寝ていたのだ。だからそれは伊織君がそのまま使うことになった。だけどカラフルな箪笥や化粧台代わりにしていた小さなテーブルは必要ないから捨てることにする。それらを一階に運んで、綾が天井や壁中に貼り付けていたカラフルな布を外したら、味気ない薄灰色の壁がでてきて元の6畳間に戻ってしまった。

「あ、やっと普通の部屋だ」


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