長い夜には手をとって
伊織君は埃よけに顔に巻いていたタオルを首筋から外して、ほっと息をつく。私は紙袋の口をガムテープで止めて、時計を見ながら言った。
「案外早く片付きそうだね。じゃあお昼にしようか」
「寒いけど外にいきますか?それとも俺、何か買ってこようか?」
伊織君がそう聞くのに、私は首を振る。
「君の予定がわからなかったから、一応食材買ってあるんだよね。私作るよー。・・・まあ、一応歓迎会ってことで」
「一応。あははは」
彼は明るい笑い声を上げて、それから頭を下げる。ありがとうございますって。いえいえ、どういたしまして。私も会釈を返す。まだ作ってないのにお礼を言われてしまった・・・。普通のカレーを作るつもりなんだけど・・・不味かったらどうしよう。
「えらく可愛い部屋だったなー、ちょっとイメージが違った」
ポツンと彼が言う。私は立ち上がって服の埃を払いながら言った。
「ジャムル君と付き合いだしてからだねー、綾がどんどんアジア系の趣味になっていったの。影響が大きかったんだろうね。働いているインド料理屋のインテリアがすごい好きって、いつも言ってたし」
ふーん、と彼の声。ベッドに座って壁からはがした布を手にとって、それをしみじみと見詰めながら、呟くように小さな声で伊織君が言った。
「姉貴、どこに行っちゃったのかなー・・・」
大きな窓から差し込む光で部屋の中を漂う埃がキラキラと光る。
消えてしまった綾を思って、二人はしばらくそのままでぼうっとしていた。