長い夜には手をとって
綾の弟、伊織君は、バッグ一つで引っ越してきたその日から4日間、色々なことをした。
綾の部屋から出したテーブルや椅子、本やCD、ポスターなどを売りにいき(現金で28000円になったらしくて渡された)、面倒で捨てられずに溜まっていた粗大ゴミを運んで捨て、二人の帰宅時間が違うことで防犯が手薄になるということで(ドアにチェーンがかけられない)、ドアを2重鍵にしたりした。そして切れたままで放置していた洗面所の電球を換えて、私から家賃と光熱費の支払い口座の通帳を受け取った。
私はそれを、おおー!と思いながら見ていた。
だって会社から戻ってきたら、鍵が増えてて洗面所に明かりが点り、粗大ごみを置いていて見ないようにしていた小さな庭が綺麗に掃除されていたのだ。
毎日帰宅すると、家のどこか一部が綺麗に補修されてたりするんだよ!はがれかけてた壁紙とか、扉がちゃんと閉まらなかった階段下の物置のドアだとかが。驚くでしょ。何だよ、この子、便利~!って。私は口をあけっぱなしにして感動した。えらく手が器用なんだな···。
彼はちょっと呆れた顔をして感動のあまり拍手する私を見下ろす。
「ここはずっと人間が二人住んでたはずだよね?よく放置してたねー。危ないでしょ、玄関も庭も」
って。
流石に多少は恥かしくて、私は口の中でごにょごにょと言い訳をする。
「・・・ないならないで、何とかなったんで。今まで危険な目にあったこともなかったし・・・」