長い夜には手をとって


 綾とは毎日楽しく、そしてふわふわと過ごしていて、規則らしい規則もなかった私たちだ。ご飯は食べたいときに食べたし、気がむいたら相手の分も作っておいておく。なければないでそれでも良かった。徹夜で映画を見てふらふらになりながら仕事にいくことだってしょっちゅうだった。これやって~とお互いに言い合ってどちらもやらず、当番を決めても実行されず、家事は一向に片付かない。それでもまあいっか、そう笑いながらダラダラとお菓子を食べたりしていたのだ。

 まあ要するに、気楽な生活でだらしなかった。

 伊織君は、綾に比べるとはるかにしっかりした同居人だ。私は感心かつ安心して、この補修費用は請求してね、と言ったのだけれど、彼は笑っていいですよと言う。俺もここに住むし、気になって変えたのは俺だから、って。

 気楽な女二人暮らしから、しっかりした男性との同居へチェンジ。ただし、彼は仕事柄時間が不規則なので、私はその影響をさほど受けずに住んだ。

 本当に顔を合わせない生活だったからだ。

 報告通り、彼はその後マレーシアだかシンガポールだかに仕事で行ってしまって、私は一人暮らしだったからだ。アジアから戻ってきたあとも北海道だ九州だと撮影旅行に出ていたようで、年末に一度、宮崎県からのポストカードがきたくらい。

 宮崎名物カキ氷の白熊がアップになったポストカードで、裏面には『今宮崎だよー。凪子さん元気?お土産はありませんので悪しからず』という何だそりゃな文面がのっていた。ちょっと笑ってしまった。


< 29 / 223 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop