長い夜には手をとって
その日の夜。
見るテレビもなくて、私はぼんやりと居間の綾が置いて行ったソファーに座り、グリューワインを飲んでいた。部屋の電気は消していて、テーブルの上に蝋燭を立てて。その小さな火がチラチラと揺れ動くのを見ながら、マグカップを両手に持っていた。
これはクリスマスに飲もうって、綾と11月に作ったものだ。赤ワインに砂糖、シナモンとオレンジ、クローブを入れて煮込むだけの、簡単で美味しいホットワイン。
学生時代にドイツにいっていたらしい綾が、冬になると毎年作る飲み物だった。これがないとクリスマスは来ないのよー!なんて言って。
甘くて、シナモンの香りが強くて、飲むと一気に全身が温まるワイン。これを鍋ごと温めてテーブルにドンと置き、パンをつまみにしながら朝まで飲んだくれる、というのが私たち二人の素敵な冬の夜の過ごし方だったのだ。
今年はクリスマスはお祝いしなかった。
同居していた水谷弟はそのとき鹿児島だかどこだかに行っていて、私はこの家に一人。残業も出来なくて仕方ないから6時には家に戻り、いつもの夕食を食べて長めにお風呂に入り、さっさと寝てしまったのだった。
これを飲む気にもなれなくて。
あの時は、この同居人がいるけれど常に独り、という生活にもまだ慣れてなくて、どうしていいか判らなかったのだろう。
つーんと鼻のおくにアルコールが抜けていく。ああ、これはほんと、温まる~・・・。私は両足を上げて丸くなりながらソファーに沈んでいた。
その時、玄関のドアに鍵が差し込まれる音がした。