長い夜には手をとって
私は身を起こさず、そのままの体勢で玄関の方を見る。玄関と台所、居間は全部繋がっているので、ソファーから見えるのだ。上の鍵がまわされて、ついで下の鍵もまわされる。そのまま見ていたら、白い息を吐きながら伊織君が入ってきた。
久しぶりの対面だ。よく考えたら、今年に入ってから顔を合わせたのは3回目くらいじゃないだろうか。
「お帰りー」
私がソファーから声をかけると、彼はびくっと一瞬体を震わせてパッと顔を上げる。
「ああ、びっくりした!―――――ここに居たんだ?電気がついてないから、部屋にいるのかと・・・」
彼はもう一度、びっくりしたー!と言うと、鍵を二つとも閉めて上がってくる。今日は黒いコートに深緑のマフラーをしていて、いつもよりもシックな装いだ。髪も長いなりにちゃんと整えてある。私は人差し指をくるくると回しながらニヤニヤと笑う。
「久しぶりだよね、我がハウスメイトよ!それにしても、あららー、今日はいつものカジュアルスタイルじゃないんだね~。へへへ~、もしかして伊織君たらデート?」
「ん?凪子さん、もしかして酔ってる?」
彼は居間にやってきてソファーに丸まる私を見下ろし、テーブルの上のグリューワインに気がついた。
「あ、グリューだ」
「おー、知ってるんだ?」
彼がちょっと口元を広げて笑顔を作る。
「これ、姉貴が作ったやつ?懐かしいなー。一緒に住んでるときは毎年飲まされた」
ああ、そうか。私は頷く。綾はまだ弟と暮らしているときからこれを作っていたんだな、と思って。