長い夜には手をとって


 それをどこに隠してあるかは勿論言ってない。だけど、私の留守中に綾は家捜ししたのだろう。ここ数日、私は天井裏を開けてないからそれがいつのことかは判らない。だけどとにかく、綾は全部持って行ってしまった。全部、ぜーんぶ。

 一階のダイニングでテーブルにつき、私は震える手で、もう一度、綾の書置きを見る。

 『塚村凪子様。 急にこうすることになったこと、ごめんね。本当にごめんね。でも戻って来て、いつか必ず返すから。理由はあるけど言わないことにする。体には気をつけて、風邪を引かないようにしてね。 綾』

 私は紙を置いて、DKに面している大きな窓の外を見た。

 雪は降ってないけれど、今日もキッパリと寒そうな冬の光景だった。空は高くて透き通り、上空では強い風が吹いているのだろう。葉っぱの一枚もない木々は揺れて、寒さに震えているように見える。真っ直ぐに太陽の光が落ちてきて隣の家の裏手に停められた赤い自転車を輝かせていた。

 ・・・私の、5年間の汗と涙の結晶の、102万円・・・。

 ごめんね、だと?

 
 あのヤロー。




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