長い夜には手をとって
私は思わず、布団を押しのけて跳ね起きた。
「え!?伊織君!?」
『はい、俺です。ほんとすみません、もう起きてるかと思って』
あらまあ!ハウスメイト君じゃないのー!私は電話を耳に押し付けながら自分の額を手で叩く。相手は確認して出なきゃダメだわ、もう!
「あの・・・いや、ごめんね。うちのお母さんだと思ったものだから。大丈夫です。ついさっきだけど、一応起きてたから!」
ははは、と彼が笑う。ならよかった、そう言って。電話で話したことは初めてだから、耳に直接流れ込んでくるその低音にちょっとぼおっとなってしまった。
・・・何だよ、君、いい声もってるじゃないか。
「ええと・・・それで、ご用件は?」
頭がハッキリしてくると伊織君から電話を貰う理由が判らない。彼の声に反応して、もしかしたら赤くなってしまっているかもしれない頬に手をあてた。・・・うん、ちょっと熱いかも。あらあら。
『あのー、俺ちょっと忘れものしちゃって。それで、もし凪子さん今日外出予定あるなら、申し訳ないけどスタジオに寄ってもらえないかと思って』
「あら忘れ物?」
伊織君は情けなさそうな声ではいと言う。どうやら、今日の夕方に仕事で使う予定の書類を机の上に置いて出勤してしまったらしい。
『コピーがないからそれがどうしても要るんだけど、今日は先生が居なくて他が学生アシだけだから取りに帰れなさそうで・・・』
あ、成る程。私は何故かベッドの上で正座をして、電話を持ったままで頷く。