長い夜には手をとって


「あのー、水谷が言ってた、ハウスメイトさんですか?」

 さっきの男性がパーテーションの側に立ち、私を見ている。私と同じくらいかちょっと年上か、という感じで、伊織君とは違ってスマートな格好をしている。黒いジャケットとスラックスに白いシャツ。髪は短く整えられて、茶色縁の眼鏡をかけている。お洒落な人だ。この人が伊織君が言っていた『アシスタントから上がった同じ立場のヤツ』なのだろうと判った。

 私は会釈をしながらもう一度笑顔を作る。

「はい。塚村です。忘れ物を届けにきました」

「鷲尾です。水谷は今撮影中なんで、あなたが来たら俺が相手するように言われてます。汚い場所ですけど、コーヒー、どうですか?」

 鷲尾と名乗った男性は、部屋の入口のところにあるちょっとした休憩ブースを指す。

「あ、いえいえ。届けにきただけなので。もう失礼します」

 私が頭を振りながらそう言うと、彼はそうですか、といいながら、背中をむけかける。だけど何を思ったか、ふ、と振り返った。そして私の顔をじっと見る。

「・・・あの、何か」

 今日は何故だかよく人に見られる日だ。私が怪訝に思ってそう聞くと、彼は、失礼、といいながら眼鏡を直した。

「すみません、ジロジロと。だけどどこかで見たことがあるなあ~と思って。・・・あ、判りました」

「え?あの、お会いしたことありました?」

 私が不思議に思ってそう聞くと、いえいえ、と彼は笑う。

「写真で見たことがあったんです。だから正確には会ったわけではなくて――――――、ちょっとすみません。ええと、確か、ここら辺に・・・」


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