長い夜には手をとって
私達の後ろで、鷲尾さんが言った。
「・・・悪い、水谷。マジで、わざとじゃなかったんだが。判っててモデルしてるんだと・・・」
伊織君は頭をかいて、鷲尾さんに手を振った。
「いや、悪いのは俺だし。相手頼んだのも、俺だし。大丈夫、ありがと鷲尾」
鷲尾さんは彼に両手をあわせ、私には会釈をして、さっさとパーテーションの向こうに消える。
私は伊織君を見て首を傾げた。さて、さて?
伊織君はひきつった笑顔を浮かべながら、入口からスタスタとこちらへ歩いて来る。漫画だったら顔から汗が大量に噴出しているような顔だ。
「えーっと・・・それ、ごめんね、凪子さん。えらく気持ち良さそうだったから、つい撮っちゃって」
「寝顔を」
「―――――うん。えっと、丁度カメラも持ってたし・・・。あの・・・本当にすみません。やっちゃいけないのは百も承知だったんだけど、つい」
「スッピンを」
うう~・・・と呻きながら、彼は両手に顔を埋める。
「ごめん・・・。嫌だよね」
私はもう一度、手に持った写真をじっと見た。そこは居間の、いつものソファー。引越しした時に友人のお古を譲ってもらった二人用のではなく、綾の持ち物である、一人用のソファーで丸くなって眠りこける私の上半身。肘おきにクッションをのっけ、そこに頭を預けて丸まっている。
そう言えば、お風呂上がりにパジャマの上に半纏を羽織り、テレビを観ながらビールを飲んでいたらつい眠ってしまったことがあったのだ。
私は記憶をゆっくりと辿る。