長い夜には手をとって


 長テーブルの向こう側で、同じ派遣会社から来ている同僚の、菊池さんが心配そうな顔で覗き込んでいる。

「大丈夫~?何か最近、えらくぼーっとしてない?」

 ここ、いい?と前に座りながら、菊池さんは首を傾げる。私はあははは、と乾いた笑い声を上げる。

「うん、ちょっと・・・プライベートで色々あったもんで。つい考えこんじゃって」

「そうなんだ?何か大変なの?あ、もしかして誰か新しく好きな人が出来たとかー?」

 菊池さんはそう言って、目をきらりと光らせた。そういえば元彼と別れたときに、菊池さんにその話をしていたのだったな、と思い出す。あれは去年の夏のことで、菊池さんは私に自分の恋話をするたびに塚村さんも新しい彼氏を作るべきだって拳を振り上げていたんだっけ。

 私はいやいやと首を振る。

「全然色っぽい話じゃないのよ・・・。あのさ、私が一緒に住んでた子、菊池さん覚えてる?」

「あ、綾さん?うん勿論。夏のバーベキューは楽しかったよね、今年もまたやろうよ」

 ニコニコしてそう言って、菊池さんはコップの水を飲む。そういえば今年の夏、菊池さんやもう二人の女友達を呼んで家でパーティーをしたのだった。私はその楽しい記憶を思い出してドーンと落ち込みながら、暗い声で言った。

「実はね、綾が蒸発したの」

「―――――え!?」

「男と一緒に、逃亡」

「ええっ!??えー、ちょっとビックリ~。男って・・・あの、インド人の彼氏!?」

 つい大声をあげてしまって、そのことに気がついて口元を押さえながら、菊池さんは身を乗り出した。


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