長い夜には手をとって
ちくしょ~うっ!!
人目も気にせず会社の制服のままで走る私は、きっと涙目だった。だけどそれも仕方ないよね。そして、飛び込んだ取引銀行のATMで吐き出された小さな紙に書いてあった口座残高は、それをもっとしっかりした涙に変えるのに十分な金額だった。
本当に、どうにかしなければならない。
一日中そう思いつめて、相談に乗るよ?と晩ご飯に誘ってくれた菊池さんに断りをつげ、午後6時、私は家へと戻ってきた。
頭の中は、家賃の二文字。
正直ショックが強くてお腹も空いてないから、夕食は作らずに済む。とりあえずとコートを脱ぎ、暖房のスイッチをいれて、やかんに水をいれた。コーヒーでも作って、本腰いれてこれからのことを考えようと思ったのだ。
ガスをつけたところで、玄関のチャイムが鳴る。
小さな家だから10歩くらいで玄関につく。もし新聞の勧誘だったら、断りついでにこのモヤモヤした気持ちをぶつけてやる、そう思いながら、私は語気荒くドア越しに叫んだ。
「はーい!?」
すると聞こえてきたのは、落ち着いた、低めの声。
「こんばんは、すみません。水谷です。――――――水谷綾の、弟です」