長い夜には手をとって
「俺はお願いする立場だからどっちでもいいよー」
「うーん、床とか水びたしになるかな・・・。いや、でもここだと暖房もあるしね。じゃあ準備する」
「宜しくー。ありがと、凪子さん」
問題だったのは、お風呂だった。
最初は足首の熱が引くまでは温めないほうがいいとのことで、お風呂は医者に禁止されていたのだ。シャワーならと言われていたけれど、ここはテレビで見る新築の家のような広いお風呂場なわけではない。この古い一軒家には辛うじて洗面所とお風呂場がついているけれど、大人なら膝を抱えて入らなければならない大きさの浴槽に、低い位置でしか設置出来ないシャワー。
よくよく聞いてみると、伊織君の勤めている会社、スタジオ阿相にはシャワーブースがあるらしく、そこでシャワーを浴びて帰ってくることが多いらしかった。だけど今は家に缶詰なのだ。ここでどうにかしなければならない。私は普段は狭い洗い場で突っ立ってシャワーを浴びるのだけれど、今の伊織君はそれが大変難しい状況にあった。
シャワーだけなら、大丈夫かも。そう言う伊織君に、私が言ったのだ。
でもシャンプーは厳しいんじゃない?体は壁に寄りかかって手で洗えるかもだけど、って。
それで、頭は台所で洗うか、ということになったのだった。勿論、私が洗う前提で。
台所のシンクを片付けて、パパッと水垢も擦り落とす。伊織君に流し台の前に立ってもらって俯く格好で両肘をついて自分の体を支えて貰い、右足は台の上にタオルを重ねて置き、その上において痛みを確認する。