君が嫌い
『それじゃあ私はこれで……。』


話したい内容が終わったようで、席を立ち帰ろうとする中村さん。


よかった。
これでもう彼女と何も話さなくて済むんだ。


どんどん背中が遠ざかっていく。
玄関はもう目と鼻の先。


『……酒。』


『……えっ?』


『姉ちゃんが帰って飲み相手がいなくなっちゃったんだよね。だから飲み相手になってよ。』


『……私が相手でいいの?』


『君が暇で飲み相手になってもいいよって思うならね。』


『許して……くれるの?』


『もうそんな昔のこと忘れた。年取ったんだな、記憶がない。』


『それってどういう……』


『ああもう、忘れたって言ったら忘れたの。それ以上何か言ったら追い出すよ。』


『もう何も言いません!何も言わないからー!!』


走ってリビングへ向かってくる彼女。


自分の抱いていた感情とは違う言葉を送ってしまった。
何故自分がそんな事をしたのか分からない。


だけど戻って来た時の彼女の顔を見たらそんなのどうでもいいと思えた。

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