甘くて苦い恋をした
翌朝、出勤すると、加瀬さんと坂口さんの姿が見あたらなかった。
二人して遅刻だなんて…
やっぱり、あの後二人は…
嫌な想像が頭に浮かび、胃がキュッと痛み出した。
「おはよう 沙耶ちゃん… 加瀬ならさっき坂口さんを連れて出て行ったよ」
「え…」
振り向くと、結城さんがすぐ後ろに立って私を見つめていた。
「加瀬のこと探してたんでしょ?」
「い いえ 別にそんなことは… あっ ちょっと探しものがあるので資料室に行ってきますね」
私は逃げるように営業室を出た。
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資料室のドアに手を掛けると、ドアの隙間から加瀬さんと坂口さんの姿が見えた。
あ…
ここにいたんだ…
それにしても、二人きりで資料室なんて…
まさか、キスでもするつもりなんじゃ…
胸がズキンと痛み出し、慌てて閉めようとしたその瞬間、中から怒っている加瀬さんの声が聞こえてきた。
「おまえさ、昨日は仕事の飲みだって分かってた筈だよなあ? あんな飲み方してどういうつもりだよ… いくら新人だからって自覚なさ過ぎなんじゃねーの?」
厳しい口調の加瀬さんに、坂口さんの方は黙って俯いていた。
ここでこんな話をしているってことは、昨夜は一緒じゃなかったんだ…
ちょっとホッとしていると、再び加瀬さんが声を張り上げた。
「高本を連れて行ったのがそんなに気に入らなかったか? 社長が自分より高本を信頼してて悔しかったかよ… でも、それは仕方ないことだろ? 高本は半年近く『サクラガーデン』に関わってきたんだから… それくらい理解できるよな?」
「違います… そんなことじゃないんです」
ようやく坂口さんが口を開いた。
「じゃあ、何なんだよ…」
すると、坂口さんは加瀬さんの顔を見上げてこう言った。
「加瀬さんが…高本さんばかりでちっとも私を見てくれないからです! 私は加瀬さんのことが好きなのに… 本気なのに…」
しばしの沈黙の後、加瀬さんはため息交じりに呟いた。
「そういう話か… なら、いくら言っても無駄だよな」
「加瀬さん、私」
「ごめん… 悪いけどおまえの気持ちには応えられない」
「嫌です! そんなこと言わないで下さい! 少しでいいから振り向いて下さい! 諦めるなんてできません!」
坂口さんは泣きながら、加瀬さんの胸にしがみついた。
「坂口… おまえ、しばらく俺の担当から外れろ」
加瀬さんが坂口さんの体を引き離しながらそう言った。
「そんな…」
「仕方ないだろ 仕事にも支障が出てるんだから…」
「嫌です!」
「だったら、ちゃんと俺のこと諦めろよ…」
「そんなのできません…」
首を振る坂口さんに、加瀬さんは大きなため息をついた。
「とにかく、今日はもう帰れ… 明日からは別の奴と組んでもらうから…」
泣きじゃくる坂口さんにそう告げると、加瀬さんは資料室から出て行った。