甘くて苦い恋をした
その日の夕方…
一人で資料室に籠もっていると、結城さんが入ってきた。
「沙耶ちゃん まだ、帰ってなかったんだ…」
「あ… 実は加瀬さんから、サクラガーデンの件で頼まれごとをしてて… ちょっと探しものです。」
本当は今朝のうちにと思っていたのだけど、あんな場面に遭遇してしまったから…
「ふーん そうなんだ…」
結城さんはゆっくりと私の方に近づいてきた。
「沙耶ちゃんさ 今朝、資料室から戻ってきてからずっと様子が変だったね… 坂口さんが早退したことと何か関係あるんじゃない?」
まるで探偵のような口ぶりで、そんなことを言い出した。
「結城さんって、ホントにそういうとこ鋭いですよね」
「そりゃ… 沙耶ちゃんのこと狙ってるからね 隙あらばって思ってるし」
結城さんは私の背後でピタリと足を止めた。
「当ててあげようか?」
「えっ?」
「今朝、沙耶ちゃんは資料室で坂口さんが加瀬にフラれてるところを目撃した… 自分と同じ立場の彼女が加瀬にバッサリ切り捨てられたのを見て、いつか自分もそうなるんじゃないかって怖くなった。こんな感じ?」
結城さんの言葉に思わず絶句した。
全部、図星だったから…
いつか私も加瀬さんへの想いが爆発したら、今朝の坂口さんのように呆気なく捨てられてしまう。
分かっていたつもりだったけど、告白をした途端、手のひらを返された坂口さんを間近でみたら恐ろしくなった。
「もうやめちゃえばいいのに…」
「できればとっくにそうしてます…」
「頑なだね 加瀬のどこがいいの?」
結城さんが私の耳元で囁いた。
首筋に感じた結城さんの息に思わずゾクッとした。
「結城さん…」
「ゆっくり攻めようかと思ってたんだけどさ、そろそろ時間もないんだよね… 強引にいくしかないかな」
今度はそう呟くと、後ろから私の首筋にキスをしてきた。
「えっ ちょっと、何するんですか!」
慌てて振り払おうとした手はすぐに捕まれて、強引に壁に押さえつけられた。
「結城さん 急に何するんですか! やめて下さい!」
突然の結城さんの豹変ぶりに恐怖を感じた。
結城さんは怯える私を見つめてこう言った。
「俺ね、もうすぐこの会社やめるんだよね… 田舎帰って親父の会社継ぐんだよ… 別にこの会社には何の未練もないんだけどさ、最後にあいつの大事なものを奪ってやりたかったんだよね… でも、沙耶ちゃん手強かったから、もう傷つけることくらいしかできないけど…」
「ちょっと、結城さん 何言ってるんですか!」
「だから、ごめんね 沙耶ちゃんには何の恨みもないんだけど… 許してね」