甘くて苦い恋をした

結城さんはそう言うと、束ねた私の手を壁に押さえつけながら、右手でジャケットのボタンを外し始めた。

「いや! やめて! 助けて!!」

私は必死に抵抗しながら大声で叫んだ。

「ごめんね 沙耶ちゃん… 助けはこないよ 鍵持ったまま内鍵かけちゃったから… それに地下の資料室なんて滅多に人も来ないしね…」

結城さんがそう呟いた時だった…
バタンと大きな音がして、資料室のドアが勢いよく蹴り開けられた。

「てめー 沙耶に何してんだよ!!」

そう叫びながら入ってきたのは加瀬さんだった。

加瀬さんは私から結城さんを引き離すと、結城さんの顔を思い切り殴りつけた。

「イッテ…」

「ふざけんなよ おまえ…」

声を荒げながら鋭く睨みつける加瀬さんに、結城さんは切れた唇に手を当てながらフッと笑った。

「あーあ 残念… もう少しでおまえが苦しむ顔が見れたのにな…」

「おまえ、俺に何か恨みでもあんの?」

「昔俺が本気で好きだった女を奪った仕返しだよ… おまえにも味わって欲しかったんだよね 本気で惚れてる女を奪われる苦しみをさ…」

「もしかして雪乃のことか? あれはおまえが勝手に付きまとってただけだろ? 逆恨みで高本巻き込むのやめてくれよ!」

「逆恨みじゃないよ おまえが来る前は俺たち上手くいってたんだから… おまえのせいなんだよ!」

「例えそうだとしても高本には関係ないことだろ! 俺はおまえが高本にしたこと絶対許さねーぞ」

「どうぞ 人事にでも報告するなり好きにすれば?俺、どうせこの会社やめるから…」

「あ?」

「もう、どうでもいいや どうせ雪乃は俺の元には戻ってこないしね 沙耶ちゃん、ごめんね… 加瀬の話も、あれ全部俺の嘘だから…」

結城さんは最後にそう言い残し、資料室を出て行った。

「沙耶…」

パタンとドアが閉まった瞬間、加瀬さんに強く抱きしめられた。

 

 







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