甘くて苦い恋をした
私が務めるアクラスは、飲食店のコンサルタント業務をメインとする会社だ。
レストランやカフェなどをプロデュースしたり、売り上げの伸びない店舗に出向いて改善策を提案したり、スタッフへの研修を代行したりと…
とにかく、顧客の要望に応じて幅広いサービスを提供している。
「沙耶ちゃん お昼はライバル店の偵察ね…」
結城さんの営業車で向かったのは、とてもお洒落なフレンチレストランだった。
「ここですか?」
「うん 今度うちがプロデュースするアルピーノがワンブロック先にあるんだよね」
「なるほど…」
「じゃあ、俺達は恋人同士っていう設定かな」
「要りませんよね… そんな設定」
私は容赦なく、結城さんに冷ややかな目を向けた。
「ハハ 沙耶ちゃんはいつもツンばっかだな… たまにはデレてよ」
「デレ方知りませんし…」
「でも、女の子は可愛くデレといた方が得だよ。男なんて単純だからさ… 甘えられたいんだよ」
そんなことは、言われなくても分かってる。
でも、私にはできなかったのだ。
本当はあの日、言いたかったのに…
加瀬さんと離れたくないって伝えたかったのに…
私はずっとこれからも
可愛い女にはなれないのだろう。
「まあ、俺は… 無理して強がってる子も好きだけどね さっ 行こっか」
私はコクリと頷いて、営業車を降りた。
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「いらっしゃいませ… どうぞこちらに」
案内された席には、真っ赤なバラが飾られていた。
ちょうど、ピアノとバイオリンの演奏も始まったところだった。
「なんか、随分カップル多いですね…」
「雑誌のデート特集にも取り上げられてたからね」
「そうなんですか… あっ メニューの写真撮りますね」
携帯を取り出し、怪しまれないようにシャッターを切る。
「仕事は忘れていいよ… デートのつもりで誘ったから」
「えっ」
「俺ね 沙耶ちゃんのこと、狙うことにしたから」
「は? そういう冗談はやめて下さいって」
全くもう…
この人には困ったもんだ。
私が本気にしたら、どうするつもりなのだろう…
「冗談かどうか、今夜、確かめてみる?」
「もういいから仕事して下さい!」
「ハハ 手厳しいね…」
愉快そうに笑う結城さんを、私はキッと睨みつけた。