甘くて苦い恋をした
シャワーから出ると、加瀬さんが温かいココアを入れてくれた。
「加瀬さん、普段ココアなんて飲むんですか?」
ふと疑問に思い、何気なく聞いてみた。
まさか、甘いものが苦手な加瀬さんの家で、ココアが出てくるとは思わなかったから…
「ああ それ… 俺用にじゃなくて沙耶の為に買っておいたんだよ。ついでにそのカップもな」
加瀬さんはソファに腰かけながら、ちょっと照れくさそうに笑った。
確かに言われてみれば、目の前に置かれたマグカップは可愛い水玉の柄で、大人っぽい加瀬さんの部屋の雰囲気にこれだけ合っていない気がする。
何だか胸がキュンとなった。
私専用のマグカップがあるなんて…
加瀬さんはどういうつもりで用意してくれてたのかな…
そして、私はいつ…
加瀬さんから愛してると言われていたんだろう…
「加瀬さん そろそろ、教えて下さい。さっき言ってたこと…」
早く答えが知りたくて、ソファーにすわる加瀬さんの顔をジッと見つめた。
すると、加瀬さんは私の肩を抱き寄せながらこう尋ねた。
「沙耶を送っていったあの日、俺とキスしたのは覚えてるんだっけ?」
私はコクリと頷いた。
「本当はキスした後に、俺は沙耶に愛してるって伝えたんだよ… そしたら、沙耶は、私もだって言って、やっと思いが通じて嬉しいって、泣きながらそう言ったんだよ」
「えっ…」
そっか…
確かにあの日、泣いていたような記憶がある。
加瀬さんに『愛してる』って言ってもらえて、嬉しかったからなんだ。
加瀬さんはこう続けた。
「その後、しばらく抱きしめてたら、沙耶はいつの間にか眠ってて… 俺は沙耶をベッドに寝かせて部屋を出た。でも、沙耶はかなり酔ってたし、きっと覚えてないだろうと思ったから、次の日にきちんと俺から言うつもりだった…
んだけどな」
そこで加瀬さんは言葉を止めて、私を見た。
「あっ… 私、あんなこと」
資料室で加瀬さんに言った言葉を思い出し、思わず両手で口を覆った。
好きじゃないとか、誰でもよかったとか…
結構、酷いことを言ってしまった。
「ごめんなさい…」
「まあ、沙耶の本心じゃないのは分かってたんだけどさ… 沙耶があまりにも素直じゃないから、ちょっとムカついてイジワルしたんだよ… とにかく、沙耶に俺を好きだと言わせるまでは、意地でも俺からは言わないって…」
加瀬さんがそう言って笑った。
「でも、沙耶はずっと素っ気ないし、俺が言った言葉信じてセフレみたいになってるし… そうこうしてるうちに結城が沙耶を口説き出すし… そろそろヤバいなとは思ってたんだ… でも、まさか、あいつが雪乃のことで俺を恨んでるとは思わなかったから… ごめんな 沙耶 俺が変な意地張ってなければ、もっとちゃんと沙耶を守ってやれたのに…」
私は謝る加瀬さんを見つめながら、顔を横に振った。