甘くて苦い恋をした
「加瀬さん… 今、戻りました」
先に会社に戻っていた加瀬さんを資料室で見つけ、声をかけた。
「ああ お疲れ… どうだった?」
ファイルを手に持ちながら、加瀬さんが振り返った。
「それが……」
「どうした? 上手くいかなかったか?」
心配そうな表情で、加瀬さんが私の元へと歩いてきた。
「実は… 私じゃ頼りないと思われたみたいで…仕事の話は一切して貰えませんでした…」
「え? 仕事の話してないの?」
驚いた表情で加瀬さんが言った。
「はい ホントにすいません! 私の力不足です…」
「じゃあ、今まで何してたの?」
ごもっともな言葉が返ってきた。
「あ… はい… オーナーが作って下さったラテアートを頂きながら、世間話を…してまして」
言っていて自分が情けなくなった。
でも、
引き止められて、なかなか帰してもらえなかったのだ。
「ふーん 世間話ね…」
加瀬さんが呟いた。
これじゃ、認めてもらうどころか呆れられたに違いない…
「すいませんでした…」
私が謝ると、加瀬さんはラザンのファイルに目を通しながらこう言った。
「ラザンのオーナーって随分若いよな… 沙耶さ、こいつに口説かれてたんじゃないの?」
加瀬さんの言葉に、私は慌てて首を振った。
「いえ まさか! あ…食事には誘われましたけど、それはただの社交辞令だと思いますし」
「やっぱ、口説かれてんじゃん…」
加瀬さんがため息をついた。
「あの… 加瀬さん」
「一人で行かせなきゃよかった…」
加瀬さんが私を抱き寄せて、耳元でそう言った。
「加瀬さん…」
「俺が担当変わるから… 沙耶は二度と行くなよ」
「えっ」
「連絡も一切取るな…」
「でも…」
さすがにそこまでは…と思った瞬間
「イタッ」
加瀬さんが私の耳たぶに噛みついた。
「分かった?」
「はい」
大人しく頷くと、今度は唇を塞がれた。
「んっ… 加瀬さん… 仕事中ですよ」
「そうだな… これじゃ坂口のこと言えないよな…」
そう言いながらも、やめる気配は一向になく…
「ん… あ… 加瀬…さん」
加瀬さんのキスはどんどん深く、激しくなっていった。