甘くて苦い恋をした

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加瀬さんは、かなりのヤキモチやきだ。
そして、結構、独占欲も強いと思う。

『サクラガーデン』レセプションパーティー当日の朝

起きると、胸元にたくさんのキスマークがつけられていた。

これじゃせっかく買ったワンピは着れそうにない…
クローゼットの前でガックリと肩を落としていると、後ろから加瀬さんの手がスッと伸びてきた。

「沙耶 もうその服は諦めて、こっちの紺のワンピースにしときなよ」

私にネイビーのワンピを当てながら、にっこり微笑んでいる加瀬さんにちょっとカチンときた。

「もう 加瀬さん、絶対ワザとですよね! どうしてこんなことするんですか!」

泣きそうになりながら私が睨みつけると、加瀬さんが甘い声でこう返してきた。

「だって、そんなの沙耶に着られたら、気になって俺が仕事になんないだろ?」 

実は、私が今日着る予定だった桜色のワンピは、屈むと胸の谷間が少し見えてしまうらしい…

昨夜、泊まりに来ていた加瀬さんの前で着たら、加瀬さんがそう言って大騒ぎしていた。

けれど、
色もデザインも凄く気に入って買った服だし、屈む時さえ気を付ければ、今日のパーティーにピッタリのドレスだった筈なのだ。

「ひどいです 加瀬さん…」

私はため息をつきながら、仕方なくネイビーのワンピに袖を通した。

確かにキスマークは隠れるけれど…

「やっぱり、なんか地味ですよね いくら裏方といえど何だか返って浮いちゃいそうです。」

「そんなことないよ… シンプルだけど品がいいし、沙耶によく似合ってる… 男を誘惑するようなドレスより、よっぽどいいよ…」

「誘惑って…」

「ほら、指輪も左にしなきゃ、虫除けになんないだろ?」

加瀬さんが私の右手の薬指から指輪を外し、左手へと付け替えた。

この指輪は、昨日、加瀬さんからプレゼントされものだ。

「わざわざ、そこまでしなくても大丈夫なのに…」

「ラザンの件で、ちょっと懲りたんだよ… 沙耶が男の下心にあまりにも鈍感だから…」

それを言われると、何も言い返えせない…

「そのドレスは、二人きりの時にな… 今度、ちゃんとしたデート連れていくから」

耳元で加瀬さんが言った。

「え ホントですか?」

ぱっと顔を上げた私…

「ああ 約束な…」

「はい!」

思わず笑顔になっていた。
デートという響きが、凄く嬉しかったから…

「だから、今日はちゃんと頑張れよ」

「それは大丈夫です!絶対成功させますね!」

思い入れのあるサクラガーデンの晴れの舞台…
気合だけは死ぬほどある。

「そうか そりゃ頼もしいな…」

張り切る私を見て、加瀬さんがクスッと笑っていた。
















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