甘くて苦い恋をした
その後、私達は桜社長に連れられ、テラス席へと場所を移した。
春樹さんは仕事の電話が入った為、席を立ってしまい…
何とも複雑なメンバーでテーブルを囲む羽目となった。
「しかし、驚いたよ… まさか、二人が知り合いだったとはね」
桜社長が愉快そうに笑った。
「雪乃さんは、私が、昔、担当していたお店のパティシエをされていまして…」
加瀬さんが桜社長に説明すると、雪乃さんもそれに合わせるようにこう言った。
「そうなのよ、おじ様。加瀬さんは、私が学生の頃働いていたお店のアドバイザーさんでね… 私も本当にお世話になったの」
雪乃さんの言葉に胸がズキンと痛んだ。
だって、二人は付き合っていたのだから…
「そうだったのか それなら、話が早い。実はね、加瀬くん 今度、雪乃がスイーツの店を出店したいらしくてね」
「え…」
加瀬さんが驚いた顔で雪乃さんを見た。
「いえ、おじ様、その話はまだ何も進んでなくて…」
雪乃さんが恥ずかしそうに、プルプルと首を振った。
「ああ、聞いてるよ だから、加瀬くんみたいなプロについて貰った方がいいんじゃないか。どうだろう 加瀬くん、雪乃の面倒を見てやって貰えないだろうか」
桜社長がとんでもないことを言い出した。
「でも、おじ様、加瀬さんにお願いするような大きな店じゃないのよ…」
「でも、一人じゃ大変じゃないか… まだ、土地だって探せてないんだろ?」
「そうだけど… でも、いいの? 加瀬さん」
雪乃さんが加瀬さんを見つめた。
「加瀬くん! どうか、引き受けてくれないか」
桜社長も頭を下げた。
ダメだ
もうこの流れで、加瀬さんが断れる筈がない…
「分かりました。では、この件は高本と一緒に担当させて頂きますね」
え?
「そうか ありがとう ほっとしたよ、加瀬くん。高本くんもすまないね… 宜しく頼んだよ」
「えっ あ はい 分かりました…」
そっか… 私もなんだ。
少しホッとしたような…
いやいや、それでも、やっぱり複雑だ。
二人きりになられるよりは、よっぽどいいのだろうけれど、加瀬さんが雪乃さんと会うことには変わりないのだから…
「では、私達はそろそろ持ち場に戻りますので、失礼しますね。行くぞ、高本」
加瀬さんは私に声をかけ、立ち上がった。