甘くて苦い恋をした
桜社長の挨拶でいよいよレセプションパーテーがスタートした。
あれから加瀬さんとは別行動…
忙しくて、会話を交わす暇もなかった。
だから、雪乃さんのことも何も話せていない…
「高本さん、ちゃんと食べれてますか?」
春樹さんがお皿に料理を乗せて持って来てくれた。
「ありがとうございます…」
「どういたしまして」
本当に春樹さんは、何から何まで紳士的だ。
きっと、育ちが違うのだろう。
「それより、加瀬さん遅いですね… 先ほど、ライトアップしたガーデンチャペルをマスコミ関係者に見てもらっていたようですが、彼だけまだ戻ってきていませんね。雪乃の姿もみえないし… 高本さん、気になりませんか?」
「え… あの それって」
「ちゃんと見張っていた方がいいですよ… あの二人」
春樹さんは私にコソッと耳打ちすると、他の招待客の所へと行ってしまった。
何だかよく分からないけれど、そんなことを言われたら気になって仕方がない。
まるで加瀬さんと雪乃さんが、二人で密会でもしているような言い方だ。
私はパーティー会場を抜け出して、春樹さんの言うとおりガーデンチャペルへと向かった。
テラスの中を歩いていると、青くライトアップされた祭壇に二つの人影が動くのが見えた。
どうやら加瀬さんと雪乃さんに間違いなさそうだ。
途端に胸騒ぎがしてきた。
私は植え込みに隠れながら、静かに近づいていった。
「まさか、こんなところで悠真に会えるなんてね… 本当に驚いたなあ…」
雪乃さんの声が聞こえてきた。
「それはこっちのセリフだよ… おまえいつ帰ってきたの?」
「半年くらい前…」
「なんだ… 結構、早かったんじゃん」
加瀬さんがクスッと笑った。
「私、本当はね… 帰ってすぐ悠真に会いに行くつもりだったの… でも、その前に街で偶然悠真のこと見かけてね、追いかけたんだけど、女の人と一緒に教会に入って行っちゃったから… 諦めてそのまま帰ってきたの… 結婚するんだって思ったから」
「あー それ、もしかしたら、仕事で高本と一緒に他所のチャペルを回ってた時かもな… ほら、ここのガーデンチャペル任されてたからさ…」
「えっ じゃあ、私の早とちりだったんだ… そっか じゃあ、まだ間に合うのかな? フランスに行く前にしてくれたプロポーズってまだ有効?」
雪乃さんの言葉にショックを受けた。
まさか、加瀬さんが雪乃さんにプロポーズしていたなんて思ってもみなかったから…
加瀬さん、何て答えるの?
心臓がもの凄いスピードで煩く鳴り続けていた。