甘くて苦い恋をした
仕事の後、私は加瀬さんのマンションへと向かった。
一応スポーツドリンクと果物は用意したけれど…
食事って何を作ってあげればいいのだろう…
人の看病なんて滅多にしたことがないから、あまりよく分からない。本人に聞けば何とかなるかな…
そんなことをぼんやり考えながらエントランスのドアを開けると、インターホーンの前に雪乃さんが立っていた。
「えっ 雪乃さん!?」
「あ… 高本さん!」
お互い顔を見合わせ目を丸くした。
「あっ、悠真の彼女って高本さんなんですか?」
雪乃さんがハッとした顔でそう尋ねてきた。
「えっ あー えっと」
どうしよう…
私が勝手にバラしてしまっていいのかな
それに、雪乃さんとはこれから仕事で一緒になる訳だし、元カノと今カノの関係なんて気まずそうだ。
「あ… いえ、上司に様子を見てくるように言われたんです… 加瀬さん一人暮らしだから」
仕方なくそう言って誤魔化した。
「雪乃さんこそどうして…」
「あっ 私は… 昼間、携帯にかけたら、辛そうな声で別の日にかけ直してくれって言われて… ちょっと心配になって。悠真ってこういう時、彼女とか絶対来させないから… だから私が様子だけでもって思って…」
「そう…なんですか」
「でも、高本さん来てくれて安心しました。これ、ハチミツとしょうがとレモンで作ったシロップなんですけど… これを一口でいいので悠真に飲ませてあげて貰えませんか? 多分、部屋には入れて貰えないと思うので、この合鍵で勝手に入ってください」
雪乃さんはそう言って、合鍵とシロップの瓶を差し出してきたけれど…
自分がもらっていない合鍵を、雪乃さんから渡されることが物凄くショックで、すぐに言葉が出なかった。
「………」
「あっ すいません… 合鍵なんて私が持ってたらビックリしますよね。私、ストーカーとかじゃないので安心して下さい。実は昔、悠真と付き合っていたことがあるんです… でも、もう完全にフラれちゃったから… 今日は鍵も返すつもりで来ました。なので、宜しくお願いします」
雪乃さんはそれだけ言うと、私にお辞儀をして去って行った。
私は複雑な気持ちを抱えながら、合鍵を手に加瀬さんの部屋へと向かった。